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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2291号 判決 1956年4月10日

控訴人 南白亀農産加工企業組合 外一名

被控訴人 長生信用組合

主文

原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。

被控訴人に対し、控訴人南白亀農産加工企業組合は、金十万円、控訴人斉藤富作は、金二十万円及び各これに対する昭和二十九年七月十八日から完済に至るまで百円につき日歩七銭の割合による金員を支払え。

控訴人らと被控訴人間に生じた訴訟費用は第一、二審共控訴人らの負担とする。

本判決は仮りに執行することができる。

事実

控訴人らは、適式の呼出を受けたのに、昭和三十一年三月二十七日午前十時の本件最初になすべき口頭弁論期日に出頭しないので、控訴人らの提出した控訴状に記載した事項を陳述したものと看做し、出頭した相手方に弁論を命じた。

控訴状の記載によれば、控訴人らは、「原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。被控訴人の控訴人らに対する請求を棄却する。訴訟費用のうち控訴人らに関する部分は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、なお請求を変更して主文第二、三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

右新訴の請求原因として被控訴代理人の陳述した事実の要旨は、「被控訴人は、金銭貸付等を営業とする信用組合であるところ、昭和二十九年五月十八日手形貸付の方法により、(イ)南白亀農産株式会社に対し金十万円、(ロ)控訴人南白亀農産加工企業組合に対し金十万円を、いずれも弁済期日同年七月十七日、期限後の遅延利息を百円につき日歩七銭の約定で貸し付け、控訴人齊藤富作は、右(イ)、(ロ)の借受金債務の保証をなした。しかるに右借主らは、弁済期にいたるも元金はもとより遅延利息の支払をなさないので、被控訴人は、控訴人南白亀農産加工企業組合に対し、右(ロ)の貸金十万円、控訴人斉藤富作に対し、右(イ)、(ロ)の保証人として金二十万円及び各これに対する弁済期の翌日たる昭和二十九年七月十八日から完済に至るまで百円につき日歩七銭の割合による約定遅延利息の支払を求めるため本訴請求に及ぶ。なお原審において請求した約束手形金は、本件貸金に関し振り出された約束手形の最後の書換手形に基くものであるところ、被控訴人は、当審において訴を変更して、右手形金の請求をなさず、新たに右貸金の請求をなす。」というにある。

控訴人らは、原審並びに当審を通じて終始口頭弁論期日に出頭せず、かつ答弁書、準備書面を提出せず、控訴状においても事実については何ら記載するところがない。

理由

まず訴の変更の許否について審究するに、当事者は控訴審においても民事訴訟法第二百三十二条の要件に合する限り訴の変更をなしうることは疑を容れないところであつて、(最高裁判所昭和二十八年九月十一日言渡判決集七巻九号九一八頁参照)被控訴人の主張するところによれば新請求は第一審において訴求した約束手形債権の原因関係に基くものであり、両者はその請求の基礎を一にするものと認められるので、被控訴人のなした訴の変更はこれを許すべきものとなすを相当とする。そして右訴の変更はいわゆる交換的訴の変更であり、新請求が許されるときは旧請求は当然取り下げたものであるが、控訴人らは、右訴変更の趣旨を記載した書面の送達を受けながら、これに対し何ら異議を述べた事跡がないので、暗黙の間右訴の変更に同意し、ひいて旧訴の取下についても異議がなかつたものと認めるを相当とする。よつて専ら右新訴請求の当否について審究するに、被控訴人の右新訴請求の原因として陳述した事実関係は、民事訴訟法第百四十条第三項第一項により控訴人らにおいてこれを自白したものとみなすべく、右事実に基く被控訴人の右新訴請求は正当であつて認容すべきである。しかるところ、原判決は旧訴についてなされたものであり、本件訴の変更が許される限り当然失効するものであつて、従つて右判決の当否、言葉をかえていえば控訴人らの控訴の理由ありや否やを判断するの要なく、判決主文において「原判決を取り消す」と記載することはあるいは意味をなさないところであるかも知れないのであるが、本件が当審に移審し係属するにいたつたのは控訴人らの控訴に基くものであり、しかしてその不服申立の対象たる原判決が失効したことを明らかにする意味において原判決の取消を主文に明記しておくことはあながち無用の事でないものというべく、また訴の変更があつたにせよ、依然として同一当事者間に従前の訴訟状態を維持し、旧訴の訴訟資料をも利用して新請求を審判するのであるから、訴訟費用の負担を定めるについてもこの点を勘案することを必要とすべく、よつて民事訴訟法第八十九条、第九十三条、第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 草間英一 猪俣幸一)

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